HIMSS & Health 2.0 Japan 2019

2019 Highlights

2019年開催ハイライト

このコンテンツは日本経済新聞で2020年1月21日に掲載した「HIMSS&Health2.0特集」をウェブ用に再構成したものです。

Maximize the Value~テクノロジーが最大化するヘルスケアの「価値」~

ヘルステックの成長促進を目指す国内最大級の国際会議「HIMSS & Health 2.0 Japan」を共催している国際NPO HIMSSとヘルスケア支援企業のメドピア、日本経済新聞社は昨年12月、都内で「テクノロジーが最大化するヘルスケアの『価値』」と題してカンファレンスを開いた。医師や製薬企業、技術開発者や識者らが集まり、先進的なヘルスケアを実現するイノベーション加速の必要性などを巡り意見を交わした。

(会場:日本橋三井ホール/室町三井ホール&カンファレンス  開催日:2019年12月9日、10日)

価値の最大化を考えよう

ヘルスケア関連分野における価値とはなんなのか。誰のための価値か。病気が治る、疾病を防ぐ、健康であるためのコストなど。この2日間のプログラムは人工知能(AI)とヘルステックのような1つのテーマに絞らず、最先端医療、地域包括ケア、遠隔医療、仮想現実(VR)といった、多様性に富んだヘルステック業界の最新トレンドがわかるようにした。
議論の中で、テクノロジーが最大化するヘルスケアの「価値」をつかんでほしい。5回目を迎え、起業の成功事例も出てきて参加者の熱気も高まっている。医師を核とするネットワークの輪が分散型へと拡大しており、独自のエコシステムづくりは第2ステージに入った。完璧なヘルスケアシステムをもつ国はない。患者の安全を第一に「解」を探ろう。

写真左から ブルース・スタインバーグ 氏 上田 悠理 氏 石見 陽 氏
  • 写真左から
  • ブルース・スタインバーグ 氏 Managing Director Executive Vice President, HIMSS International
  • 上田 悠理 氏 メドピア株式会社/HIMSS & Health 2.0 Japan 統括ディレクター(医師)
  • 石見 陽 氏 メドピア株式会社 代表取締役社長CEO(医師・医学博士)

Opening / Panel Discussion先進ヘルスケア実現へ 
イノベーション促進を

オープニングダイアログ日本・世界のヘルステック動向 HIMSS & Health 2.0

人への尊厳、倫理観求められる

スタートアップ企業にエールを送りたいと話すチカアリ氏

100人を超える講演者が登壇し、27社がデモを上演する盛りだくさんな2日間は、ヘルステック企業を取り巻く日本と世界の状況を概観するオープニングダイアログから始まった。
口火を切ったのは「Health2.0」の共同代表、マシュー・ホルト氏。2007年から米カリフォルニアでHealth2.0を開催し、医療・ヘルスケアの最新技術とその先進的な活用事例を世界に発信してきた。「米ヘルステック市場への投資は順調に伸びている。19年も新タイプのヘルスケアを提供するベンチャーが何社も新規に株式を公開した。一方で近年、デジタル技術を活用するヘルステックベンチャーが大企業に買収され、ヘルスデータの移行が懸念されている。今後注視していくべき課題だ」と指摘した。
この日、12月9日が創立記念日というメドピアの石見陽社長。「規制緩和とともに新規事業が生まれ、資金も流入している。ヘルステック企業の資金調達はかなり良好に推移している」と日本の現状を紹介した。「この1年でヘルステック企業は140社増え、このうち前年より12社多い77社が10億円以上を調達した。この5年間で資金調達額は毎年ほぼ倍増している」。今後は「経済性に対する規制、技術に対する倫理観、ミッション(使命)に対するエビデンス(証拠)というように、対極的な視点をもつことが大切になっている」と強調した。
これを受け、日本医師会の横倉義武会長は医療安全や生命・医療倫理の重要性に言及した。「科学や医療技術の進歩を健康寿命の増進につなげると同時に、医療制度の革新に向けた継続的な取り組みが必要だ。プライバシー保護や人の生命・尊厳、遺伝子を理由にした差別といった、複雑で多様な医療倫理、社会的な問題に留意しなければならない」。そのうえで「日本は今、明るい長寿社会か暗い高齢社会に入るか、大きな転機だ。ヘルステック業界が力を発揮し、世界にモデルを示したい」と期待を寄せた。
在日米国大使館のモフモード・チカアリ上席商務官は日米産業界の連携の重要性を挙げた。「ヘルステック業界は日進月歩で成長している。日米が長期的に連携すれば課題を乗り越えてチャンスが広がる。課題の一つは、健康情報という個人にとって大切な情報を守るためのサイバーセキュリティーの構築だ。日米でベストプラクティスを積み重ね、アジア太平洋地域の国々とも共有していきたい」と今後を展望した。

  • 昨年3月に「日本の医療のグランドデザイン2030」を発表した横倉氏
  • 12年間、「Health2.0」を主導してきたホルト氏

【1】スタートアップ企業にエールを送りたいと話すチカアリ氏【2】昨年3月に「日本の医療のグランドデザイン2030」を発表した横倉氏【3】12年間、「Health2.0」を主導してきたホルト氏

スピーカー
  • マシュー・ホルト 氏 Co-Chairman, Health2.0
  • 石見 陽 氏 メドピア株式会社 代表取締役社長CEO(医師・医学博士)
  • モフモード・チカアリ 氏 在日米国大使館 上席商務官
  • 横倉 義武 氏 日本医師会会長 世界医師会元会長/アジア大洋州医師会連合元会長
パネルディスカッション&デモ「人間」を拡張する技術

新しいテクノロジーにより人間の五感が進化する

岩崎氏が実演した「触感型ゲームコントローラ」。腕に直接巻き付けて「グー」や「パー」などの腕の動きに伴う筋肉の変位を検出し、電極から仮想の触感と筋肉刺激をフィードバックさせることで腕の動きのインプットとアウトプットの両方が可能になる。光で筋肉の動きを捉えるため、電気ノイズに強く、汗をかいても使えるなどの利点がある。この装置を活用して今後は予防医療に取り組む。

2日目午後には、新しいテクノロジーによる五感・感覚の進化に関して菅原、岩崎、中石の3氏がそれぞれ開発・提供している技術を実演し、議論を交わした。岩崎氏は触感型ゲームコントローラについて「腕に付けたセンサーから筋肉の変位を検出しジェスチャー認識を行う仕組みで、筋変位データを使ったフィットネスアプリも発売した。予防医療にも取り組みたい」と語った。
耳に付けない対話支援システムの中石氏は「スピーカーで話す側の音声を聞きやすくするシステムで、補聴器の装着を嫌がる難聴者から発想した。認知症の検査時の実験で、聴覚機能の低下が検査結果に影響することも分かった」と機能を紹介した。網膜投影レーザーの菅原氏は「レーザービームを瞳孔に通し、網膜をスクリーンにして画像を描き込む技術で、遠視・近視でも鮮明な画像を見ることが可能だ」と説明した。
若林氏から10年後を見据えた新技術・展望を問われた3氏は「ロボットの遠隔操作を開発中」(岩崎氏)、「語音聴取アプリによる簡易的なチェックと数値化に取り組む」(中石氏)、「自己診断できる検眼機を普及させ健康寿命を延ばしたい」(菅原氏)と言明した。科学的視点からの小川氏の質問には「スポーツ+テクノロジーという面でアスリートからの引き合いもある」(岩崎氏)。「聴覚は話す力にも影響する。例えば英語をよく聞き取れれば難聴者の英語の発音もきれいになる」(中石氏)。「眼鏡に翻訳機能を搭載すれば外国人と言語の壁を越えて会話ができる」(菅原氏)などと答えた。
若林氏が「視覚と聴覚、体性感覚との組み合わせのアイデアはあるか」と問うと、中石氏は「難聴者には文字化が重要なため網膜投影は活用できる。マイクの集音の精度は課題」と指摘。岩崎氏は「重さに関して刺激だけでなく重い物が載る映像や音も組み合わせたい」、菅原氏は「ピアノを弾く時の筋肉の動きを可視化できるといい」と答えた。
小川氏は「ひらめきや創造性を持つエキスパートやアーティストらの脳について、新技術で人間がどう拡張するのか研究したい」と抱負を述べた。

  • 菅原氏は視力矯正効果を認められて医療機器となる「網膜投影レーザー」通じ「新しい目のインフラづくり」をしていくと表明した。
  • 中石氏は耳に装用しない「対話支援システム」を紹介。聞く側が身に着けるという発想を覆し、話す側が音声を「脳に届く音」に切り替えている

【1】岩崎氏が実演した「触感型ゲームコントローラ」。腕に直接巻き付けて「グー」や「パー」などの腕の動きに伴う筋肉の変位を検出し、電極から仮想の触感と筋肉刺激をフィードバックさせることで腕の動きのインプットとアウトプットの両方が可能になる。光で筋肉の動きを捉えるため、電気ノイズに強く、汗をかいても使えるなどの利点がある。この装置を活用して今後は予防医療に取り組む。【2】菅原氏は視力矯正効果を認められて医療機器となる「網膜投影レーザー」通じ「新しい目のインフラづくり」をしていくと表明した。【3】中石氏は耳に装用しない「対話支援システム」を紹介。聞く側が身に着けるという発想を覆し、話す側が音声を「脳に届く音」に切り替えている。

モデレーター
  • 若林 龍成 氏 株式会社neumo 代表取締役
パネリスト
  • 小川 剛史 氏 株式会社国際電気通信基礎技術研究所 脳情報通信総合研究所 主任研究員
デモ
  • 菅原 充 氏 株式会社QDレーザ 代表取締役社長(工学博士)
  • 岩崎 健一郎 氏 H2L株式会社 代表取締役
  • 中石 真一路 氏 ユニバーサル・サウンドデザイン株式会社 代表取締役 広島大学 宇宙再生医療センター 研究員
パネルディスカッションより良い明日に向けての健康リスク管理

データの活用で国民の健康づくりを推進

アレッシィ氏に答え、多様な健診データを電子記録とする取り組みなどを説明する新畑氏

初日午前には、高齢化の加速をにらんだ健康管理の在り方を考えるセッションを開いた。アレッシィ氏の問いに応じ、厚生労働省の新畑氏は、パーソナルヘルスレコード(PHR)の活用や、レセプトデータと特定健診データを収集して構築した悉皆(しっかい)性の高いNDBというデータベースについて説明した。
2021年3月を目標に進めている特定健診データをはじめとして、様々な健診データを電子記録として個人に返す取り組みを進めていることも明らかにした。トータルに健康増進をサポートするための仕組み作りも民間と連携して取り組んでいることについても紹介した。
経済産業省の西川氏は、明るい超高齢社会を実現するためのソリューションの重要性と、厚労、総務両省と共に取り組んでいるPHRの相互運用性・標準化に言及した。「病院と病院外がデジタルヘルスを通じてつながり、国民の健康づくりを徹底的に推進することが日本の社会保障政策、経済政策だ」と強調した。
総務省の増原氏は、PHRの推進策として、妊娠・出産・子育て支援、疾病・介護予防、生活習慣病の重症化予防などに活用するための研究開発を進めてきた経緯を説明。「いよいよPHRデータを民間で実装させる段階に来ている。適正・安全・効果的な利活用のために、令和元年度から個人の健康医療介護データを受け取る民間事業者へのルール作りを行っていく」という計画を明かした。
続いてアレッシィ氏が「健康リスク管理が大事だが、どのように国民が自分の行動に責任を持つことができるか」と質問。西川氏は①健康無関心層が自分の健康状態を把握し、自然に健康になるような状況を作ること②公的保険で得られたデータをうまく活用すること――の2点を挙げ、「この両方をつなぐのがPHRだ」との期待を示した。
新畑氏は「行政はデータの標準化やルール作りに努めるが、データの活用は様々なアイデアが必要だ」として、民間の協力を求めた。増原氏は「利用者が好きなシステムを選べるようにせねばならない」と相互運用性の重要性を力説。オンライン診療の主要ターゲットにスマートフォンやIoT 機器を使いこなせない人が多いことにも触れ「リテラシー強化は重要な検討課題だ」と訴えた。

病院の内外のネットワークの重要性を訴える西川氏

【1】アレッシィ氏に答え、多様な健診データを電子記録とする取り組みなどを説明する新畑氏【2】病院の内外のネットワークの重要性を訴える西川氏

モデレーター
  • チャールズ・アレッシィ 氏 Chief Clinical Officer, HIMSS
パネリスト
  • 西川 和見 氏 経済産業省 ヘルスケア産業課長
  • 新畑 覚也 氏 厚生労働省保険局医療介護連携政策課医療費適正化対策推進室 室長
  • 増原 知宏 氏 総務省情報流通行政局情報流通振興課情報流通高度化推進室 課長補佐
パネルディスカッション&デモあなた専用の健康を実現するために

個別化が未来の医療・健康の支えに

水口氏が実演した腸内環境評価キットは腸内代謝物質などを手掛かりに検査を行う。冷凍せず常温で腸内細菌の遺伝子や代謝物質の情報を保存できる利点もある。

個別化医療(プレシジョン・メディシン)、ゲノム医療に関する議論で、明星氏は「昨年6月からがん患者の遺伝子を調べて最適な薬などを探す『がん遺伝子パネル検査』の保険適用が始まったが、課題も多い。目標は遺伝子別のがん医療」と医療現場の現状を紹介。尿検査で栄養素を数値化、個人別のサプリメントを提供する美濃部氏は「アスリートや生活習慣病予備軍の人の健康維持に貢献したい」と語った。
西村氏はゲノム医療の情報検索、リポート作成を支援する技術を実演。「臨床医が欲しかったサービス」だと評価した明星氏に答え「検索に手間がかかる日本の治験データベースも一気に検索可能」と利点を紹介した。
独自開発のキットを活用し便から腸内環境評価を行う事業を手掛ける水口氏は「病気予防につながるとされる腸内環境のコントロールに注力したい」と抱負を述べた。沼田氏は「日本の技術は高いが制度面で見直しが必要。がん遺伝子パネル検査が保険収載になったのは一歩前進だ。個別化医療が今後の医療・健康を支えていく」と締めくくった。

  • ゲノム医療とAIを融合させた検索システムを紹介した西村氏は「医師の手間も軽減できる。ぜひ広めていきたい」と強調した。
  • 15種類の栄養バランスを判断する尿検査から、サプリメント製造までを手掛ける美濃部氏は「今後検査を可能な限り無償に近い形で提供したい」と語った。

【1】水口氏が実演した腸内環境評価キットは腸内代謝物質などを手掛かりに検査を行う。冷凍せず常温で腸内細菌の遺伝子や代謝物質の情報を保存できる利点もある。【2】ゲノム医療とAIを融合させた検索システムを紹介した西村氏は「医師の手間も軽減できる。ぜひ広めていきたい」と強調した。【3】15種類の栄養バランスを判断する尿検査から、サプリメント製造までを手掛ける美濃部氏は「今後検査を可能な限り無償に近い形で提供したい」と語った。

モデレーター
  • 明星 智洋 氏 社会福祉法人 仁生社 江戸川病院 プレシジョンメディスンセンター長(医師)
パネリスト
  • 西村 邦裕 氏 株式会社テンクー 代表取締役社長
  • 水口 佳紀 氏 株式会社メタジェン 取締役 CSO
  • 美濃部 慎也 氏 株式会社ユカシカド 代表取締役
パネルディスカッション&デモ地域包括ケア~OMO(Online-Merges-Offline)を実現するために~

ITを活用した地域包括ケアの新展開

地域医療を考えるセッションでは、在宅医療のクリニックを経営し、宮城県石巻市にてICTによる地域包括ケアを行う武藤氏と、がん患者らの訪問診療や病院勤務のかたわら、地域の健康を担うべく教育を通じたまちづくりに尽力している横山氏が登壇。医療者と介護者の間にある言葉の壁や、ICTが使われにくいといった様々な地域包括ケアの課題で意見を交わし、3企業の取り組みを紹介した。
その中で大久保氏は、要介護者に様々なリハビリプログラムを自動提案する介護事業所向けSaaS「リハプラン」を説明した。志水氏は、病院の退院調整業務で、厚生労働省のオープンデータを基にした検索サービスと各医療機関の連携を促進するコネクトサービス「ケアブック」について発表を行った。後藤氏は、患者から薬局への処方箋の事前送信や、患者への服薬フォローをサポートする、かかりつけ薬局化支援サービス「kakari」の利便性を語った。各社とも既存システムとの連携やビジネスモデル、ビジョンなどを語り、今後の地域包括ケアを考える上で参考となる内容だった。

ITを活用した地域包括ケアの新展開
モデレーター
  • 武藤 真祐 氏 医療法人社団 鉄祐会 理事長  株式会社インテグリティ・ヘルスケア 代表取締役会長
パネリスト
  • 横山 太郎 氏 医療法人社団 晃徳会 横山医院 在宅・緩和クリニック 院長
デモ
  • 大久保 亮 氏 株式会社Rehab for JAPAN 代表取締役社長
  • 志水 文人 氏 株式会社3Sunny 代表取締役
  • 後藤 直樹 氏 メドピア株式会社 社長室 室長
パネルディスカッション&デモ遠隔医療はどこへ向かうか

遠隔医療の未来に向けてエビデンスを示す

遠隔医療の最前線に立つ各社が、現状と課題、そして未来についてディスカッションを行った。大石氏は「色々な企業や産官学と連携して、将来は医師と患者をシームレスにつなげることが自社の役目だ」と語った。原氏、伊藤氏は、医師としての経験を生かした独自のアプローチで、オンライン診療サービスを開発・提供していることを説明。園田氏は、遠隔医療が当たり前になる未来に向けて、今は現場が安心できるエビデンスを示していくフェーズであると分析した。

遠隔医療の未来に向けてエビデンスを示す
モデレーター
  • 宮田 俊男 氏 株式会社Medical Compass 代表取締役社長 大阪大学産学共創本部 特任教授(医師)
パネリスト
  • 大石 怜史 氏 ソフトバンク株式会社 デジタルトランスフォーメーション本部 ビジネス ストラテジスト
デモ
  • 伊藤 俊一郎 氏 株式会社AGREE 代表取締役(医師)
  • 園田 愛 氏 株式会社 インテグリティ・ヘルスケア 代表取締役社長
  • 原 聖吾 氏 株式会社 MICIN CEO(医師)
パネルディスカッションヘルスケアをデザインする~もっと素敵に、身近に!~

医療とデザインの様々な可能性を示唆

看護師の経歴を持つ吉岡氏は、デジタルホスピタルアートや「Fab Nurse」など、医療現場と研究とビジネスをつなぐ自身の活動と今後の可能性を紹介。こしの氏は、医療漫画の取材を通じて患者と医療者間のコミュニケーションギャップを感じた経験から、漫画で感情の齟齬(そご)を埋める活動の意義を語った。ヘルスケアに特化したデザイン制作会社を経営する丸山氏は、ライフログアプリのデザイン制作における役割や、アートを通じた糖尿病の啓蒙活動の取り組みなどについて説明した。

医療とデザインの様々な可能性を示唆
パネリスト
  • 吉岡 純希 氏 株式会社NODE MEDICAL代表取締役社長 Medical Design Engineer
  • 丸山 亜由美 氏 トリプル・リガーズ合同会社 代表
  • こしの りょう 氏 漫画家

Pitch Competition訪問看護の自動調整 
敗者復活から最優秀賞に

Health2.0はヘルスケア領域で国内外の企業・チームがイノベーションを競うピッチコンテストを開いた。在宅医療支援のゼストによる訪問看護スケジュールの自動作成システムが、書類選考の〝敗者復活戦〟を勝ち抜き、その後の本選も制して最優秀賞に輝いた。

47社が事業計画を競うLightning Pitch

斬新で多種多様なアイデア競う

ライトニングピッチから決勝に進んだAGREEの伊藤俊一郎氏

人がよりよく生きるための次世代サービスを発掘しよう――。新鋭のスタートアップがその斬新なアイデアや技術、ソリューションを競い合う「ピッチコンテスト」。ヘルスケアが抱える様々な課題の解決に挑戦する起業家にスポットライトを当て、資金調達やビジネスマッチングの機会を提供するための催しだ。
今回は、初日の「ライトニングピッチ」に海外からの5社を含む47社が参加した。1社3分のプレゼンはウェブ上にライブ配信され、視聴者の投票で勝ち残った2社が2日目の決勝戦に進んだ。
「本来なら亡くなっていたかもしれない赤ちゃんの命を助けられる」。メロディ・インターナショナル(香川県高松市)は、胎児の健康状態を遠隔地からモニターするセンサーと、そのデータを管理するクラウドプラットフォームを開発した。産婦人科医や助産師はデータをチェックし、離れた場所からも妊婦に様々な助言や指示を送ることができる。
「医師不足と高齢出産の増加でより高いケアが必要になっている。世界には専門的医療へのアクセスが不足し、赤ちゃんの死亡率が日本よりはるかに高い地域がある。それらを解決したい」と同社の二ノ宮敬冶氏。既にタイで導入され活用が進んでいる。
おもむろにスーツの胸ポケットから歯ブラシを取り出したのは、オーストリア・ウィーンに本社を置くPlaybrushのモリツ・オヨス氏。スマートフォンやタブレット端末とつなぎ、ゲームアプリで楽しく歯磨きを覚えられるスマート歯ブラシを開発、販売している。
歯ブラシの動きや速度、磨く動作を検知し、磨き残しのある場所に誘導するので、自然と正しい歯磨きが身につくという。そのデータを保存し、歯科医に送ることもできる。既に日本の家電量販店で販売しているが、さらなる販路拡大や新しいビジネスパートナー、投資家との出会いを求めて参加した。
ライトニングピッチに参加した多士済々の顔ぶれを見ていると、一口にヘルスケアといっても、そのアプローチは実に多様だ。文字通り「ゆりかごから墓場まで」を担う、予防、医療、介護のサービス……。先端をいく技術を駆使して心と体に向き合う国内外の挑戦者たちに耳を傾けるうち、明るい長寿社会が垣間見える気がした。

  • ワイヤレスの胎児モニターを装着するメロディ・インターナショナル尾形優子代表とプレゼンする二ノ宮氏
  • スマート歯ブラシを手に説明するPlaybrushオヨス氏
  • 持ち時間3分のプレゼンに会場は熱気を帯び

【1】ライトニングピッチから決勝に進んだAGREEの伊藤俊一郎氏【2】ワイヤレスの胎児モニターを装着するメロディ・インターナショナル尾形優子代表とプレゼンする二ノ宮氏【3】スマート歯ブラシを手に説明するPlaybrushオヨス氏【4】持ち時間3分のプレゼンに会場は熱気を帯びた

ピッチコンテスト決勝戦Startup Pitch Final

言語化しないところに秘中の秘

ライトニングピッチを1位通過したゼストの伊藤由起子氏。決勝戦で最優秀賞とアフラック賞のダブル受賞を果たした。

「この会社を支援したいと思われる方はぜひフラッグを上げてください」。5分間のプレゼンと審査員との10分の質疑応答の後、スポンサーの琴線に触れたのが6社中2社あった。2社の代表取締役は図らずも伊藤氏。男性心臓外科医であるAGREEの伊藤俊一郎氏(40)と、女性コンピュータープログラマーでゼスト創業者の伊藤由起子氏(57)だ。
決勝戦にはこの2社のほか、カルテ要約支援AIソフトのエニシア(小東茂夫代表取締役)、AIを用いた未病解析・疾病リスク予測測定のアクシオンリサーチ(佐藤友美代表取締役CEO&CTO)、「菌ケア」サービスのKINS(下川穣代表取締役)、医療支援AIのThe Clinician(タマリン・ハンキンソン氏 Co|founder and Managing Director)が挑んだ。
伊藤俊一郎氏は15年の臨床現場での経験から崩壊寸前の日本の医療を痛感。2年前にサイバーホスピタル「LEBER」を開発し、医師が働く現場をサイバー空間に拡張した。ドクター専用のアプリでデジタル問診票を読み、病名の診断、医療機関の選択、市販薬の提供などの情報を数分でチャットボットのリーバーを通じて通知する。これにより40兆円を超えた日本の医療費が「10兆円レベルで抑制できる」(伊藤俊一郎氏)持続可能なヘルスケアシステムの構築が期待できるという。
そして今回、ピッチファイナリストの最優秀賞とアフラック賞のダブル受賞に輝いたのがゼストだ。「在宅医療の人手不足をHackする」を合言葉に、訪問看護ステーションの複雑なスケジュール作成を自動化する。看護師の誰がどこに行けば一番いいのか。従来は1日分の作成に2時間かかっていたのを5分に短縮。さらに看護師の移動時間を最適化したことで稼働時間が最大化し、売り上げが2倍になった事例を紹介した。「現場の声に徹底的にフォーカスし、現場の課題と真摯に向き合って生まれたサービスに感銘を受けた」(アフラック生命保険の島田智行上席執行役員)と審査員からも好評だった。
このサービスは一見、競合の参入も激しいのではないかと思われるが、伊藤由起子氏は「最適化の領域で特許を取得している」ことを第一に挙げた。さらに「過去3年の間に、大手3社が2年と2億円をかけて弊社のデモを見てチャレンジされたが3社とも失敗。あきらめて顧客になってくれました」と明かす。
伊藤由起子氏は商社マンの父に連れられ幼少期を欧米で過ごし10歳で帰国。学校生活にはなじめなかったが、コンピューターにはがぜん、興味が尽きなかったという。25歳でゼストを起業。IT業界には40年ほど身を置いている「通」がこう表現する。「システム屋はお客様が言語化したものしかシステム化できないし、実際にやりません。でも本来ならば、システム化してはいけないところは手動でやりましょうとか、ここはシステム化しない方がいいですよと言わなければならない。そこが成り立っていないところに本当の秘密があります」と。
さらにAIは人間を生かすためのシステムにすぎないと断言。では人間がよりよく生きるための目標とは。「すべての働く人が会社も産業も国境も超えてベストマッチングで流通できるような人材のプラットフォームになる。それが私の最終目標です」

  • 佐藤 友美 氏 アクシオンリサーチ株式会社 代表取締役 CEO&CTO
  • 小東 茂夫 氏 エニシア株式会社 代表取締役
  • 下川 穣 氏  株式会社KINS 代表取締役
  • タマリン・ハンキンソン 氏Co-founder and Managing Director, The Clinician

【1】ライトニングピッチを1位通過したゼストの伊藤由起子氏。決勝戦で最優秀賞とアフラック賞のダブル受賞を果たした。【2】佐藤 友美 氏 アクシオンリサーチ株式会社 代表取締役 CEO&CTO【3】小東 茂夫 氏 エニシア株式会社 代表取締役【4】下川 穣 氏 株式会社KINS 代表取締役【5】タマリン・ハンキンソン 氏Co-founder and Managing Director, The Clinician

最優秀賞 & アフラック賞 受賞者コメント
伊藤 由起子 氏

伊藤 由起子 氏
株式会社ゼスト代表取締役

敗者復活戦の気持ちで臨みました。弊社はユニコーンのような華々しさをもたないゼブラカンパニーです。それでも選んでいただいたことに、日本のスタートアップ業界への光を見た思いです。大手企業もVCも政府も、日本のゼブラカンパニーを育ててほしいと願っています。

審査を終えて──3氏の講評

鈴木 蘭美 氏
ヤンセンファーマ メディカルアフェアーズ本部本部長

潜在的ニーズをいち早く察知し、競合に先駆けて顧客の歓喜につながるソリューションを提供している。ビジネスのメリットが具体的で分かりやすく、顧客の高い満足度はもちろんのこと、社会への貢献も実現している。

小柴 巌和 氏
三菱UFJリサーチ&コンサルティング
ソーシャルインパクト・パートナーシップ事業部 部長

ヘルステックシステムのトランスフォーメーションに向け、大活躍が期待できるサービスモデルだ。ゼブラスタートアップとしての信念を評価する。

岡崎 昌雄 氏
ファイザー 執行役員ファイザー・デジタル部門長

今の日本の課題である深刻な人手不足を抱える企業に本当に喜ばれるソリューションだ。感動した。

協賛セッション

DAY1
中尾 豊氏
中尾 豊氏 株式会社カケハシ代表取締役CEO

地域包括ケアの時代、薬局・薬剤師の価値の向上とリアル店舗による付加価値の提供を目指し、薬剤師の対物業務の効率化と対人業務の充実をサポートできる服薬指導支援型クラウド電子薬歴「Musubi」を提供している。

馬渕 邦美氏
馬渕 邦美氏 PwC Japan LLC Experience Center/
Managing Director

家庭のコネクティッドデバイスは大いに伸びしろがある分野であり、当社もフランスのEDF社など様々な企業の開発を支援している。ホームドクターや遠隔診療につながるスキルも続々開発されており、今後が期待される。

中村 理彦氏
中村 理彦氏 IQVIAジャパン グループ
Real-World & Analytics Solutions 戦略室・リアルワールドテクノロジー ディレクター

我々の強みはIQVIA COREと位置づける、世界規模で保有する膨大な医療データ、高度な分析力、テクノロジー、ライフサイエンスにおける専門知識だ。複合的なソリューションを駆使し、日本のリアルワールドデータの医療応用に貢献したい。

野村 武彦氏
野村 武彦氏 大日本住友製薬株式会社
フロンティア事業推進室室長

2019年4月にフロンティア事業推進室を発足。認知症治療における周辺症状の緩和事業、生体信号の処理とロボット技術によるサイボーグ事業、「いつでも、どこでも、だれでも採血」事業を通じて多様な健やかさに貢献する。

杉浦 克典氏
杉浦 克典氏 株式会社スギ薬局代表取締役社長

ドラッグストアのリアル拠点を中心に、デジタルを活用し新たな顧客接点を作りトータルヘルスケア戦略を進める。歩数計アプリ「スギサポwalk」、健診結果から疾患リスクを可視化する「メタボリスクレポート」等で社会課題の解決に取り組んでいる。

松崎 主税氏
松崎 主税氏 RIZAP株式会社 教育開発部
法人プログラム ユニット長 RIZAPパーソナルトレーナー 日本トップトレーナー協会認定(JTTA)

弊社はフィットネスのイメージが強いが、近年ヘルスケアにも取り組んでいる。医療機関や様々な企業と連携・共存しながら、病気の事前予防と重症化・再発予防に力を入れ、すべての人の健康寿命の延伸に貢献したい。

小川 浩一氏
小川 浩一氏 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
取締役 専務執行役員

2019年は、ヘルスケア領域で非常に学びや気づきの多い1年だった。今後も様々な企業と手を携え、この領域で日本、アジア、アフリカ、そして世界中の社会課題に対するソリューションを提供していきたい。

DAY2
村島 温子氏
村島 温子氏 国立成育医療研究センター
周産期・母性診療センター 主任副センター長
妊娠と薬情報センター センター長
(協賛 中外製薬株式会社)

妊娠と薬の安全性情報は入手が難しく、必要な情報にたどり着けない人も多い。妊婦、医師、薬剤師などに簡便に情報を届けるシステムを開発し、薬を理由に妊娠を諦めてしまう女性がいなくなることが究極の願いである。

中山 新氏
中山 新氏 第一生命ホールディングス株式会社
第一生命保険株式会社 営業企画部部長 兼 InsTech開発室長

生命保険会社の役割はプロテクションが中心だったが、今後はプリベンションでも力を発揮していきたい。そのためにはテクノロジーの活用が必須。様々な方と協業し、世界の人々のQOL向上と健康寿命の延伸に取り組む。

中山 美佳氏
中山 美佳氏 ヤンセンファーマ株式会社
メディカルアフェアーズ本部

病態解明や新規治療薬の開発を実施している当社では、エボラ出血熱が拡大するコンゴ民主共和国へのエボラ治験ワクチンの寄付や、デジタル面では皮膚の慢性疾患である掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)患者向けのアプリ開発等を通じ社会貢献に取り組んでいる。

ジョージア・ミッチ(Georgia Mitsi)氏
ジョージア・ミッチ(Georgia Mitsi)氏 MBA, PhD, Senior Director,
Frontier Business Office, Sunovion Pharmaceuticals Inc.
(協賛 大日本住友製薬株式会社)

デジタルヘルスにおいて重要なのは、パッション、忍耐、持続性、そしてクリエイティビティだと考える。どうすればテクノロジーの価値を最大化できるのか。容易なことではないが、あらゆる角度から考えなければならない。

曽山 明彦氏
曽山 明彦氏 一般社団法人ライフサイエンス・イノベーション・ネットワーク・ジャパン(LINK-J)事務局長

東京都中央区日本橋を、グローバルなライフサイエンスのイノベーションハブにするため、非営利で活動している。デジタルヘルスに特化した国内初のスタートアップ総合支援プログラム「テック・フォー・ライフ」を共催している。

レセプション/展示コーナー
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CXO Dialogue:CXOミーティング

高齢化時代の医療 意思決定のあり方議論

2日目の午前には政府、自治体、アカデミア、医療、企業、NGO等の関係者二十数人が参加する形でCXOミーティングを開催した。冒頭、黒田氏が「3件のプレゼンを基に、自由トークで活発なディスカッションを促したい」と会合の趣旨を説明。続いて世界経済フォーラムから、高齢者の疾患・認知症等への対応についてデータの観点から問題提起があった。その後、HIMSSのアレッシィ氏が「A look back and glimpse ahead-Risk reduction at scale and at pace」と題してプレゼンを行い、最後に、認知症みまもり事業「みまもりあいプロジェクト」を行う社団法人セーフティネットリンケージが活動事例を紹介した。ディスカッションでは、高齢化が進む時代の医療・健康情報の管理、ダイナミック・コンセント、シェアード・ディシジョン・メイキングのあるべき姿、諸外国の取り組み等について、参加者がそれぞれの立場から活発に意見を交換した。

モデレーター
  • チャールズ・アレッシィ 氏 Chief Clinical Officer, HIMSS
  • 黑田 知宏 氏 京都大学医学部附属病院 医療情報企画部長 医学研究科 情報学研究科教授
アレッシィ氏、黒田氏がモデレーターを務め、ミーティングは2時間半にわたり白熱した。

アレッシィ氏、黒田氏がモデレーターを務め、ミーティングは2時間半にわたり白熱した。

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